愛車を修理してくれた少年たち
【6月22日】
ダーウィンには、午後5時に着いた。天気はいいし暖かく、乾燥していてすがすがしかった。
私がサイクリングの出発地に、ここダーウィンを選んだのは理由があった。私が所属しているJACC
(日本アドベンチャーサイクリストクラブ)は、これまで多くの会員が世界各地のサイクリストと交流
を深めてきたが、ここダーウィンとはまだ交流がなかったので、私が“かけ橋”になろうと考えていた
のである。
ここの空港でもホテルは自分で電話しなくてはならないとあって、当然のことながら無理だと思った
私は、今度はポリスマンに頼んでみた。この時は、事前にクラブの会長(当時)に書いて頂いた英文の
紹介状も見せた・・・すると、ポリスマンは色々考えあぐねている・・・だが、どこをどう勘違いした
のか、どうも私を国から派遣された人とでも思ったらしい? ポリスマンは適当なホテルを予約してくれ、
タクシーをわざわざ呼んでくれた。そのタクシー代はいらないと言うし、ホテルでも特別に計らってくれた。
なんてラッキーなんだろう!・・・堂々とした態度が良かったのかも?・・・ありがとうございました。
さて、私は計画を実行するため、まず英語が話せる日本人を捜すことにした。
次の日の朝、さっそく、“通訳を必要とする方はこちらへ”と、日本語で書かれた電話ボックスを見つけ、
そして一言、「私は日本人で、弦巻隆義という者です。誰か日本語を話せる人を捜しています。」と、
昨日覚えた英語で言った。すると、移民局の“のり子”さんという日本語の先生でもある方が出て下さり、
事情を話すと、昼に会うことを約束して下さった。
面会時間までに、時間があったので、さっそく“愛車:Uリーズ号”の組み立てにとりかかった。
ここまで4回も飛行機を乗り変えている。自転車は輪行袋に包んでいるが、それほど袋は丈夫でない。
果たして無事だろうか? フレームでも折れていたら大変である。修理するにしても、こんな田舎じゃ
たいした自転車屋もないだろう。私は祈りを込めて組み立て始めた。
・・・ところが、後輪がはまらない。何度はめ直してみても、うまく入ってくれないのだ。原因は、
後輪の差込口が少し曲がっている。それに、スポークも曲がっているところがあるためか、タイヤが
正常でない。やはり、飛行機の積み降ろしで傷めたらしい。大変なショックだった・・・約1時間、
無我夢中で試みた。「せっかく、ここまで来たのに、肝心の愛車がこれじゃ、いったい何のために来た
の分かりゃしない」・・・・・必死で悪戦苦闘していると、一人の青年が心配そうに手伝ってくれた。
彼は、どこからか大きな“鉄棒”みたいな物を持って来てくれた。これで差込口の曲がりを直そうと
のである。だが、なかなか直りそうにない・・・そうこうしているうちに、あきらめて自転車屋に行く
ことにした。 すぐ近くにあるというので、自転車を担いで行くと、想像以上にでっかい店である。
「ここなら、きっと元に戻してもらえる!」・・・さっそく、自分の旅のことを説明し、直してくれる
ようお願いした。だが店長は留守で、14歳くらいの少年が二人しかいなかった。少し不安であったが
「直せる自信がある」と言う。側にいてじっと愛車のゆくえを見守った。「頼むから直ってくれよ!」と
祈りを込めた。すると、この少年の技術。まるで魔法でもかけているかのように、20分もたたない
うちに直してくれるではないか! この少年たちに、日本の絵はがきをプレゼントし、日本の国旗に
サインをしてもらった。 「君は、修理の名人だよ!」と言うと、すごく喜んでくれた。
※この経験から、自転車を梱包するときは、クッション材(服などを利用)で保護したり、または、ダンボール箱(店に
運搬する際、自転車を最初に入れていたもの)を自転車屋から譲ってもらって利用したりしました。丈夫なので、
袋よりより安全です。)
ホテルに戻ると、のり子さんとサイクリング会長のビルさんが、すでに来て待ってくれていた。
さっそく私は、「今後、ダーウィンのサイクリストと交流を深めていきたい。そしてもし、日本人サイク
リストが来たら便宜を図ってほしい」と会長にお願いした。私も日本人サイクリストのはしくれ、サイク
リングの面から言えばある程度経験があり自信がある。だからこそ、まるで“国から派遣された者のように
堂々と言えたのかも知れない。また、“何かひとつは世界に貢献してみたい”という気持ちが強かった・・・
すると、会長は理解してくれ、4日後に約80kmを走るラリーがあるから、ぜひ参加するように勧めて
くださった。願ってもない国際交流のチャンスだ! もちろん参加することを約束した。
また、のり子さんが、「以前にサイクリストが訪れたことがあったが、日本人住民にたかって来たので
困ってしまったことがあった」と話していた。こうした行為は本当になくしてもらいたいものである。
ラリー参加日までは、町を見て回った。ひとつ感じたことは、誰もが気楽に私に話しかけて来ることだ。
英語を知っているいないにも係わらず誰でも友達といった感じだ。そこには疑念もないし、微笑ましい
笑顔がある。その顔を見ると、私も素直に微笑みを返す・・・『言葉は分からなくても、そこには愛が
ある』・・・実にそんな感じだ。