周りはアリヅカばかり

 

 【7月4日】

 

   キャラバンパークから、ここアデレードリバーという町(町といっても、ガソリンスタンドと郵便局

  がある10人ほどの町)まで70kmの間、家一軒すらなかった。あるのは、ひたすら真っ直ぐに伸びる

  道と道路脇に身長ほどの赤茶けたアリヅカ(蟻の巣)ぐらいだった。ここで暫く休憩する・・・・

  一度こうしたイスにでも腰掛けると、まるで石のように動きたくないが、もう少し走らなくては・・・

  念のために食糧を少し買っておく。  2時間ほど走った。一向に家が見当たらない。今日はひょっと

  すると誰もいない所で野宿なのか・・・出来るだけ人気の或る所が安全である。とにかく暗くなるまで

  走ろう。

   そう思い走っていると、ロードサイドでキャンプをしている人がいた。彼らは逆方向から来たので、

  「この先にバーがあるか」と尋ねると、14km先に有るという。彼らは、今夜はここでゆっくりした

  方がいいと勧めてくれたが、まだ走れそうなのでバーまで行くことにした・・・・30分もすると薄暗く

  なり、見通しが悪くなった。

   走っていると前方に動物らしい物がたむろしている。何だろうと近づいて見ると、自分の体より3倍

  ほどもあるバッファローが約20頭、道路上にいて、道を塞いでいるではないか。ダーウィンでカーク

  (日本人サイクリスト:JACC会員)に偶然に会った時、彼から、『バッファローに追っ掛けられて

  逃げまくった』という話を聞いていたので恐ろしい・・・だが、進まない訳にはいかない。ゆっくりと

  前進して行くと、一向に退く気配がない。困ったものだ。みんな、じっと私を見ている・・・私は前進

  する。もうバッファローから30m手前だ。もし、突進して来たら一巻の終わりだ・・・すると、

  数頭が退き始めた。そして、いっぱいの祈りを込めてサイドを通過すると、追って来る気配はない・・

  「ほっと」した。

 

   すっかり暗くなってしまった。ひたすらバー目指して走り始める。だが、なかなか見えない。急に

  上りになって来た。きつい、早く見えてくれ! バッファローのこともあり、次は何が出て来るかと

  思うと不気味だ。満身の力を込め、ぺダリを踏む。と、前方に光りが見える・・・あれがそうなのか?

  どちらにせよ、人が居ることには違いない。そう思い前進する・・・間違いなくバーだ。これで今日も

  ゆっくり、くつろげる。  テントを立てサンドウィッチを食べて横になると、いつの間にか、あの時

  の緊張も忘れ、寝込んでしまった。 教訓、『夜間走行は止めよう』 こうした人も居ない所では、

  何かあった時、どうすることも出来ない。

 

 

 

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