【6月20日】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


マクドナルドのマスター

 

   ジャンクソン夫妻に見送られ、5号線に入ると、まるでスイスに行っているような錯覚に見舞われた。

  というのも車は少ないし、広いスペースの庭、それも美しい庭付きの家ばかりだからだ。

  思わず歌を口ずさんだ。本当にいいサイクリングコースだった。エリー湖を抜けると左手にマクドナルド

  が見えて来た。一息つこうとハンバーガーとチーズバーガーを注文する。

   しばらく食べていると店のマネージャーが寄って来て、「どこから来たのか?」と尋ねてきた。

  「世界一周している」と答えると、興味があるのか「少し色々話したい」と言ってきた。即、私は「ok」

  と言い、しばらく話していると私の名前とかまるで記者のように聞いてくるので、「ニュースにでも

  なるのか?」と尋ねると、「今、テレビ局を呼んだばかりだ。10分ほどで、ここに来る」と言う。

  突然のことなので最初は信じられないくらいだったが、どうやら本当のようなので少しずつ心が高まって

  ゆくのが感じられた。何せ、日本でもサイクリングでテレビに出たことはない。一度だけ、北岳に

  自転車で登った時に、あの大きなマイクを向けられたことはあったが。

   しばらく話していると、一台の車がカメラを持ってやって来た。おんぼろ車で“テレビ局だ”という

  感じがあまりしなかったので、まだそれほど意識せずに済んだのかも知れない。暫くレポーターと

  旅の目的とか今後の計画などを話したあと、いよいよカメラを通しての取材が始まった。

   「何故、この旅をするのか?」に対し、「人々の一生は一度だけ。そしてそれはとても重要。私は若いし、

  自分を試してみたい。そして、たくさんの友達を作りたい」と答えた。 また、「今後の目標は?」と

  尋ねられ、「もし、チャンスがあれば、アフリカのキリマンジャロに自転車で登りたい」と言った。

   午後6時のテレビで今夜、私のことが出るという。これは必ず見なくてはならないと思い、近くに

  テントを立てることにした。二〜三件探し回り、やっと、ここに辿り着いた。おじさんと息子の二人

  だけで生活している家庭で、事情を話すと親戚の人を紹介され、夕方にはディナーをよばれた。

 

   さて、問題のテレビを見た。数枚の写真を撮ろうとフラッシュ付のカメラを構え、テレビの前に

  座った。午後6時30分頃、約30秒ほどではあるが、『ジャパニーズ・ワールド・サイクリスト』と

  いうことで出た。走っている姿やインタビュー、そして、日本国旗にサインしている姿や地元の人と

  握手している様子が映った。まだ、あの時の興奮が覚めない。日本でも出たことがないテレビに、

  ここアメリカで出たのだ。それも我が人生の旅“サイクリングの旅”で・・・・。

   私は帰国したら一文なしになっているだろう。しかし、そのかわり、私は素晴らしい貴重な思い出

  (人生の宝)を蓄えているんだと。

 

   ここに着く前、テントを立てさせてくれるようお願いした所がある。「no」と断られた。

  おそらく、新聞などを見せると「ok」の返事が出ると思う。しかし、それじゃダメなんだ。

  何もなくて、それでいて「ok」の返事のある所、それが一番大切だと思う。だから私は、あえて

  しつこく頼まない。また、その人の都合や気持ち、考え方もあることだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


テレビに出る

 

 

 

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